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第13回ケアワークセミナー報告
 「健康に働ける介護職場とは〜腰痛・感染症などの予防と対策〜」
  講師西野 方庸さん
    <連合近畿労働安全センター参与>

 第13回ケアワークセミナー報告


「健康に働ける介護職場とは〜腰痛・感染症などの予防と対策〜」
 講師西野 方庸さん <連合近畿労働安全センター参与>


はじめに

 安全衛生に関わる仕事をするようになって、私も随分長くなります。たとえば、現場の労働者と職場の安全パトロールを一緒にやって、そこでのいろんな問題を指摘したり、健康を守るための対策をどうやっていったらいいのかといったことをお話したりします。それから不幸にして災害に遭ったり職業病になったときに、その労災補償を取るためにどうしたらいいかという権利の問題、そうしたことのアドバイスやお手伝いをずっとやってきました。

 今日のテーマは「健康に働ける介護職場とは」ということですが、皆さんが職場で介護という仕事を健康にやり続けられる、生き甲斐を持ってやり続けられるようにするためにはどうしたらよいか、どうやって職場の改善をはかっていくか、そのヒントになるようなことが一つでもお話できたらと思います。

 今日は前半部分でいわゆる安全衛生対策、仕事と健康の関わりの問題について、介護職場にできるだけ引き付けてお話します。それから後半部分では、いざという時の災害補償の問題。災害補償が今の日本の法令や制度的にどう運用されているかというような部分、間違いやすい、よく勘違いされているような問題を重点的に紹介しようと思います。

 仕事と健康との関係、労働安全衛生というのはどういうことか。最近の行政通達も含めて、介護職場の安全衛生は今どういう状況になっているか。それから安全衛生対策の進め方、介護の職場ではどう進めていったらいいかということに少し触れます。また、ケガ・病気の補償の問題、そんな順序でお話したいと思います。

1. 介護職場の安全衛生対策

◆ 労働安全衛生法で決まっていること

 働く人の命と健康を守らなあかんというのは当然のことですが、では制度的に今どうなっているか、おさらいとして紹介しておきます。労働安全衛生法という法律があり、この法律は雇用労働者、つまり賃金をもらって働いている全ての人について、その働くことによって健康が阻害されることの無いように法律で様々な規制をしているわけです。

 その中で国の責任と事業者の責任、それから労働者自身の責任ということで色々決まりがあります。

◆ 働く人の安全を守る〜国の責任

 国の責任としては、ご存知の労働基準法で最低限の労働条件が決まっています。そして健康の問題については、その労働基準法から健康に関する部分を取り出してより詳しく定めた労働安全衛生法というのがあり、これ以下ではダメという最低基準以下を取り締まる、というのが国の責任です。しかし、この基準さえ守っておれば労働者の健康は守れるかといったらとんでもないわけで、介護の職場なんていうのは特にそうだと思います。そういう際に、こういう方向で安全衛生の対策をやりなさいというような方向性を示す、というのも国の責任となっています。

◆ 働く人の安全を守る〜事業者の責任

 次に事業者の責任は、規律・規制を遵守して、より良い方向へ努力するようにと、努力する義務もあります。それから労働者の責任が最後にあり、その規律・規制を遵守し、さまざまな対策が講じられるときにはそれに協力すべきということが規定されています。

 労働安全衛生法の第一条はこうなっています。『この法律は、労働基準法と相まって、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化、自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保することとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする』。法律の文章はとてもややこしいのですが、要するに危害防止基準を決めよということと、責任体制、誰がどういう責任を持っているか責任体制を明確にする。それから職場での自主的な活動を促進する、つまりいくら規制しても結局そこで働いている人と働かせる立場の人がどういう風に健康を守るかいうことをやらないと何も進まないということです。

 法律改正は次々とおこなわれていて、『快適な職場環境の形成を促進することを目的とする』という一項目も加わっています。つまりそれまでは労働現場といえば、化学物質や有機溶剤とかで中毒症状になり亡くなったとか、あるいはアスベストを吸って肺ガンになったとか、上から物が落ちてきて亡くなったとか、そういうものを防ぐための対策だったのですが、それだけではダメで快適に働けるような職場づくりいうところまで含めてやらないと労働者の健康は守れないとなったのです。

 この部分は介護職場の安全衛生対策を考えるとき、実は相当重要な意味を持っています。というのは腰痛症とか頚肩腕症候群は、介護の仕事をする人には多発職場になるわけです。そういう職場で頚肩腕障害や腰痛症を防ぐということは、ある意味で非常に難しい。一つひとつの積み重ね、その時のその動作一つを取り上げると何ということはないのだけれども、それを毎日毎日繰り返していると腰痛症や頚肩腕障害なるということです。そういう時間的な広がりのある労働実態に対する対策を講じることは、杓子定規な数字でこれ以下はダメというような規制ではなかなかできない。正に『快適な職場環境の形成を促進する』という部分に含まれる、そういう対策が必要だということです。そういうことで不十分とはいえ、厚生労働省の施策も進んできたというわけです。

◆ 事業者の責務、講ずべき措置

 次に事業者の責務について、第3条には『単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない』とあります。労働条件の改善、快適な職場環境の実現ということは、これは義務になっています。こんな漠然な、当たり前のことがと思われるかも知れませんが、例えば損害賠償請求の裁判なんかになったら、正にここのところが問われてきます。法律に書いてあるのにやってなかったやないか、という責任が問われるわけです。

 それから具体的に事業者が講ずべき措置いうのがあります。「墜落の防止」とか色々ありますが、24条にはこう書いています。『事業者は、労働者の作業行動から生ずる労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない』。例えば頚肩腕障害とか腰痛症が多発したというとその職場の労働者は相当の被害を被ったということになります。その方々が労災補償を受けるのはもちろんのこと、損害賠償を請求したとする。その際に裁判所は、事業者に対しちゃんと法律どおり対策を講じたのかどうかを判断するわけです。「必要な措置を講じていなかった」ということになると、責任が問われます。更にこの条文については刑事罰があって、119条で6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金となります。

◆ 事業者の債務、講ずべき措置〜介護の職場

 私は介護の職場については詳しくありませんが、先ほどお話した腰痛症とか頸肩腕障害の認定・補償の問題とかはかなり関わった経験があります。頸肩腕症候群、今は上肢障害といいますが、昭和30年代後半からずっと多発してきて、頸肩腕症候群という病名だけでは捉えきれない、例えば指曲がり症とかいろんな症状が出てきます。そういうものをひっくるめて今は上肢障害という呼び方をしています。要するに腕、指、肩など上肢を使って作業をする、その姿勢を保持する、保持することによって肩の部分、腕の部分に筋力疲労が起きる。緊張状態がずっと続く作業姿勢であれば、上肢障害の原因になるわけです。それから感染症については、後半のところで少し触れたいと思います。

 もう一つは転倒、挟まれなど普通にある滑った転んだの労働災害、この危険ももちろんあると思います。特に腰痛症については、資料にも出しましたが予防指針というのが出ています。介護職場について、行政側が安全衛生対策を示しているのはこの腰痛予防指針だけです。腰痛の予防指針というのは、当初重量物を扱う人、たとえば港湾の職場などで、明らかに重筋労働の人たちのための腰痛対策でした。それが抜本的に改められて、具体的な職種毎に『作業態様別の対策』というのが出てきます。その中に『重症心身障害児施設等における介護作業』というのもあります。この「等」というところで、介護の仕事を全て含んでいると通達文書では書いてあります。

◆ 腰痛の予防対策

 腰痛の予防対策で基本的なこととして、腰に負担のかかるような仕事は、そもそも自動化したり省力化したりすることによってかなり防げる部分が多くなります。工場の場合、物を運ぶ、物を持ち上げるとうことを機械化することになりますが、介護の職場でみると省力化、設備の構造改革ということで、いろんな器具類・機械類・道具類も出ていますから、そこの対策がまず第一になります。

 それから作業をする時に、高さの問題をどの位置で調整するのか、例えば細かい仕事、手作業をする時はちょっと高めの位置で仕事をした方が楽です。逆に重たい仕事をする時は低い位置、やや低い位置でする方が楽です。その高さの調整も含めて、この省力化の対策の範囲に入ってくるだろうと思います。そうした「作業姿勢と動作の問題」、不自然な姿勢や同じ姿勢を長時間保持している、そういう仕事は腰痛症の原因になるということがありますから、それへの対策が必要なわけです。

 それから方法論になりますが、「作業標準」の問題。介護のような仕事は個々の場面でおのおの違う、その対象者によっても違うということがあるけれども、そういう場合でも最低限ここの部分はこういう風にやるという作業標準を定めておくことは対策として有効です。また、その職場で役割分担がどれだけ明確になっているかということも大切です。つまり過重労働が特定の人に集中しないように配慮すること、そういうことも作業標準の中に含めておく必要があります。休憩時間の問題も、腰痛対策の重要なポイントです。

◆ 腰部保護ベルトの活用

 腰部保護ベルトの活用というのもこのガイドラインの中に出ています。簡単にいうと、介護労働はどうしても腰に負担のかかる仕事をせざるを得ないわけですから、その負担のかかる脊椎の部分を保護するために骨盤の部分をベルトで固定をしておく、そうすると背筋や腹筋の能力が更に強化される働きがあるということで腰部保護ベルトの有効性がいわれています。

 時々間違いがあるのは、コルセット。腰痛対策でコルセットをしてるという人がいますが、コルセットは固定する、動かさないための医療器具です。それに対して腰部保護ベルトは、動かす、動いて働いたり運動したりできる、それを助けるためのベルトです。たとえば重量挙げの選手は腰に大変な負担がかかるからしっかりしたベルトをしています。お相撲さんのまわしもそうで、ウン!と力を入れるような人は腰の保護のためにベルトをします。

◆ 腰に負担がかかる作業姿勢とは

 それから作業姿勢についてですが、要するに腰部に負担がかかるというのは不自然な姿勢ということがあります。膝関節を曲げて立つ中腰の姿勢とか上半身が前傾する前屈の姿勢、あるいはしゃがむ・かがむとかいった姿勢です。昔アメリカの研究者が、どの姿勢をとった時に椎間板にどの程度の圧力が加わるか実験でデータを出しています。それによると前かがみになっている姿勢は極端に椎間板の圧力が高まるといっています。立っている状態と座ってる状態でどっちが椎間板に圧力がかかっているかも測っていますが、これは腰痛の経験のある方ならおわかりと思いますけれど、立っている状態の方が負担が少ない。ですから立って前かがみの作業をやるのに比べれば、座って前かがみの作業をやるほうが遥かに腰には悪いということです。

 もう一つ問題になるのは、長時間同じ姿勢をずっと続けている場合、これは頸肩腕症候群や腰痛症の原因にもなり、当然体に悪い。たとえばVDT作業というコンピューターの仕事があります。ブラウン管を見て、最近は液晶画面が多いですが、キーボードを打つ事務作業がものすごく増えています。私も毎日やっていますが、あの仕事の何が悪いか。昔は放射線とか言われていましたけれども、要するに姿勢が拘束されるということが一番問題です。同一姿勢でずっと同じ仕事やる、これがダメだと。普通の事務の仕事であれば、知らない間にいろいろ体を動かしてるわけです。しかしVDT作業の場合、椅子にきちっと座ってキーボードを打つ姿勢がずっと続くことになりますから、これも頚肩腕障害とか腰痛症の原因になるといわれています。 VDT作業の場合は、同じ軽い姿勢が長時間続くわけですけれども、介護の仕事は、もっときつい仕事を何時間もやるわけですから、そういうことを前提に対策を立てる必要があります。

◆ 事業所で「作業標準」を作ることが大事

 腰痛の原因になる動作ということで特に挙げると、「持ち上げる」「引く」「押す」「曲げる」「ひねる」ということになりますが、人間の身体にとって負担の少ない姿勢で作業が行えるようにするというのが基本です。負担の少ない姿勢というのは、自分の体の正面で仕事をすることです。例えば介護の仕事で横座りになって、作業の対象が横にいるという姿勢でずっと作業をするというのはとても辛いことだと思います。だからできるだけ前に椅子を置いて、正面から対象に対して接するといったちょっとした対策を講ずるだけで負担はぐっと変わると思います。

 ということで具体的な安全衛生対策は、「作業標準」の策定となります。介護労働なんかは画一的に作業標準を作れないでしょうから、それぞれの作業条件を勘案してそれぞれの事業所で「作業標準」を作るということが望ましい。そのとき「作業標準」の大事なことは、見直しのスケジュールをちゃんと入れておくことです。その後少なくとも一年後とかに、これで本当にいいのか、毎日こういう作業工程でいいのかチェックを入れる。そしてもう一度作り直すという作業が必要です。役割分担の問題、時間管理、それから同一姿勢に対する対策などポイントは色々ありますから、そういうことも踏まえて対策を講じていくというのが肝心だと思います。

◆ 腰痛防止のために

 「介護者の健康づくり〜腰痛予防のために〜」というリーフレットがあり、結構うまくまとまっていますので引用さしていただいて、今日資料として配布させていただきました。そのなかにも正しい座り方いうことは、椅子の高さについて、椅子の高さをその人が簡単に合わせられるようにする。きっちり問題なく足が地に付くというような高さで調整しておくということが大切ということです。そして背筋を伸ばす。正座するときにはお尻のところに宛て物をする、というふうなことが注意事項になります。

 それから長時間立って仕事をするときには、片足を足台に乗せると負担が軽い。これは人によってはあまり好まれない方も多いと思いますが、これもいろんな研究を元に負担が少ない方法の例として出ている対策です。

 例えば調理員さんがまな板で包丁持ってずっと長時間切る仕事をしている場合でしたら、同じ姿勢でじっとやっている人はあまりいません。これも同一の姿勢を長時間しないための自然な体の欲求であったり、工夫なわけです。それから寝る時は膝を曲げましょう。仰向けになる場合、膝を曲げなさいと。

 物を持ち上げるときは、体の中心部にできるだけ近づける、荷物の重点を近づけてということになります。対象が人でしたら、その人の重心をできるだけ自分の体に近づけるということです。決して腕だけでは持ち上げない。

 また、床のものを操作する時は中腰を避けてしゃがんで腰を落としてから行う。車椅子のフットレストを上げる時も座るか膝を曲げて行うようにする。膝を伸ばしたまま上体を屈める姿勢は腰に負担がかかりやすい。こうしたことはよく言われることですね。

 厚生労働省の腰痛予防対策指針でいう重度心身障害者施設等の介護労働の中で出されている図の説明では、『片足を少し前に出して膝を曲げてしゃがむように抱え、この姿勢から膝を伸ばすようにすることによって持ち上げる。両膝を伸ばしたまま上体を下方に曲げる姿勢を取らないようにする。』と書いてあります。また『立位で人を抱え、身体の前方で保持する場合には、できるだけ身体の近くで支え、腰の高さより上に持ち上げないようにする。また、背筋を伸ばしたり、体を後に反らしたりしないようにする。』ということです。

2. 介護職場の安全衛生活動の進め方

次に、私の考える具体的な介護職場の安全衛生活動の進め方ということで、それなりにまとめてみました。

・工場の安全衛生と根本的に違うのは、なにか数字があるわけではないこと。

・腰痛指針以外のガイドラインはどこにもない。

安全衛生対策でこうすべきだといった議論の高まるところまでなかなかいっていない。現実は腰痛とか感染症が多発したりしているにもかかわらず、そういうものが安全衛生の活動として確立していない職種であるということが言えると思います。

・(ガイドラインを)いま介護をしている人たちの間で、工夫の積み重ね、改善の積み重ねでこれから作っていく必要がある。

◆ 「リスク評価」〜リスクとは何か

その際の考え方ということで、一つの参考として「リスク評価」というのをご紹介します。「リスク評価」というのは工場職場だけではなく、どんな職業でも取り入れられると思います。リスクアセスメントという言い方をしますけれども、リスクって一体何かということです。働いていて何か危険要因、あれが危ないというまず危険性そのものというのがあります。例えば電気は感電するといった危険性、資材とか機械とかは作業方法、作業態様が持つ危険性があります。

そういう危険要因による危害が実際に起こる確率と影響の及ぶ範囲を加味した危険の程度、つまり危険要因そのものと、それが起きる可能性。それから起きた場合に、とんでもないことになるのか、死んでしまうのか、それともちょっとした怪我で終わるのかといったこと。そういうことを含めて程度で表わすのが「リスク」という言葉になるわけです。

▼危険要因(ハザード)

→資材、機械、作業方法、作業態様が持つ危険性そのもの

▼リスク

→危険要因による危害が実際に起こる確率と影響の及ぶ範囲を加味した危険の程度(危害の大きさの期待値)

 たとえば裸電気は危ないということは、誰もが子供の時から教育を受けている。だからコンセントでちゃんと処理されてる、電気のリスクはこの現場では無視できるということです。そうした点検のもとに職場のリスクを洗い出す。介護の日常の仕事の中で「一般的」でもいいし、「昨日の仕事」ということでも結構ですから、何か「危ないな」と思ったこと、ちょっとあの時に怪我する恐れがあったこと、腰を痛める恐れがあるなとかそういうこと、気の付くことを全部挙げていきます。そして挙げていったものをレベルで分けるというのが、リスクアセスメントです。縦軸に重大性、それがどの程度身体にとって重大なのかを記す。そして横軸には可能性、一旦起こったら大変だけれども可能性はそれほどないということもあるわけで、可能性と重大性で両方とも大きければ急迫した危険性、状況であると判断できます。

▼レベル分けの概念

 こうした概念に基づいて具体的に対策を取っていく。工場のラインの安全からメンテナンスまで、今やこのリスク評価は世界を席巻しています。なるほどわかりやすい方法ですね。たとえばいま洗い出し、箇条書きした「危ないなと思ったこと」について、有害性の程度を「わずかに有害」と「有害」と「極めて有害」の3つのうちどれにあたるかを決めます。次に可能性は「極めて低い」のか、「低い」のか、いや可能性は「ある」というのか、3角うちから選びます。これで3かける3で9の枡ができ、この9の組み合わせで物事を判断するというわけです。

 3×3の9のマスを「わずかに有害で、極めて低い可能性」というのから「極めて有害で、可能性がある」というのまで、斜めに刻むと五段階の順位付けが自動的にできることになります。たとえば最悪の「極めて有害で、可能性がある」にあてはまるようなものは、「許容できないリスク」になりますから、すぐにでもその仕事は辞めましょう、あるいはそのリスクが低減されるまでその業務を行ってはいけない、あるいはその業務自体を放棄することも考える、という対策になります。

 反対に「わずかに有害で、極めて低い可能性」だったら「軽微なリスク」となり、対策をあえてする必要はないとなり、「中等度」だったらリスクを下げる努力をするとなります。ということで、この五段階で優先順位をつけて対応策を決めていく。介護の仕事、職場についても基本的に「順位付けをして対策を自動的に展開できるようにする」という方法で色々発案し、対策を施すことが安全に働くことになると思います。

▼リスク評価の基本

発生の可能性
有害性の程度
わずかに有害
有害
きわめて有害
きわめて低い 軽微なリスク 許容できるリスク 中程度のリスク
低い 許容できるリスク 中程度のリスク 大きなリスク
あり 中程度のリスク 大きなリスク 許容できないリスク

リスクの大きさ
必要な対策
軽微なリスク 対策不要、記録も不要
許容できるリスク 対策の追加は不要。コストがかからなければ、よりコスト−効果比のよい対策や改善を考えてもよい。現行の対策が効果を上げていることはモニターする。
中等度のリスク リスクを下げる努力を続ける。ただし、必要なコストと時間を慎重に予測し、その制限内で行う。起こりうる有害性の程度がきわめて高い場合には、発生の可能性を十分慎重に判断する。
大きなリスク スクが低減されるまで、業務を開始することは望ましくない。リスクの低減のために、相当な経営資源の投入を覚悟する。このリスクに関係する進行中の業務がある場合には、何らの緊急措置をとる。
許容できないリスク リスクが低減されるまでその業務を行うことは望ましくない。その業務自体を放棄することも考える。

 ここで問題になるのは、働く者同士で「いやそれはあなたが言っているだけで私ら関係ない」という話になってしまうと進まない。ですから挙げられた事柄は必ず評価にまで生かす、これは原則です。そしてリスクを見積もったら、次に先ほどの9のマス、マトリックスでリスクの評価をする。評価をしたら優先順位が付けられますから、優先順位にしたがって対策を検討する。こういう流れの中で対策を検討していくと、次の改善策がおのずと出てくる、リスクアセスメントというのはこういうことです。また対策を立てたら、その立てた状態で何か他のリスクが出てこないかも一度、この流れを通してみる。やがてリスクはどんどん低減していくことになる、というのがこの安全衛生対策です。

▼リスク評価の基本的な手順

 しかし注意すべきは、いくら対策をやっても、どんな仕事でも危ないところは必ずある。大事なのは、必ずあるけれども、そのまだ残っているリスクがはっきりするわけです。これは今のところ取り除けないリスクだということがはっきりする。そうしたら、そのリスクの情報をみんなが共有できるわけです。こういう作業をやることで共有することができる。共有ができれば、意識も含めて格段に安全衛生対策が向上する、という効果が期待できます。つまりリスクを分析してリスクをアセスメントする、というのがこのリスクアセスメントの全体像です。

◆ 介護労働での「リスク評価」

介護労働で「リスクを評価する」ということをまとめますと、要するに日頃の仕事でこういう場面がしんどい、危ないという事例を箇条書きにする。あるいはグループ討論をしてみる。近頃ではデジカメとかデジタルビデオとかありますからそういうものも利用して、たとえばビデオをみんなで見て、今の仕事でどの部分が危ないところか、どの部分が負担になるか話し合ってみることも大切です。こうすると、毎日同じ職場で仕事をされている方々であれば、自分の仕事を客観的に見つめ直すという作業ができるわけです。そういう中で、新たに負担になっている部分にが出たら、リスク評価につなげていけます。

ILOが2001年にこのようにどこの職場でも活用できるリスクアセスメントという方法を中心にした、労働安全衛生マネジメントシステムのガイドラインを出して、いま国際的にあらゆる職場で労働安全衛生はこれでいこうという話になっています。皆さんの介護職場でも活用できるのではないかということで紹介させていただきました。

▼リスクアセスメント

3. 災害補償の知識

 次に災害補償、一般的な労災の災害補償の話も含めてお話します。最初に問題を出しますので、考えてみてください。

Q.仕事を終え、1年前から通っている駅前の英会話教室に直行、終了後バイクで帰宅途中に交通事故にあったが、英会話は仕事と関係ないので通勤途上災害の給付の対象にはならない。

A.正しいと思いますか? 通勤災害なら労災保険の給付対象となるというのはご存知だと思いますが、この場合はどっちでしょう。正解は「なる」。通勤災害になります。通勤というのは、就業の場所と住居の間を合理的な経路および方法で往復することを言い、中断・逸脱している間とその後は含みません。この場合を考えてみると、英会話学校に通っていることは通勤には含まない、ということになりますね。「中断・逸脱」にあたるんではないかということです。

 ところが「中断・逸脱」の例外がまた法律で規定されていて、1つ目は「日用品の購入」、スーパーに行っておかずを買うとかいうこと。2つ目が「学校へ行く」ことです。学校教育法第一条に定める学校とか、その他それに準ずるものなら0Kです。3つ目が「病院」、4つ目が選挙の「投票」となっています。それでこのケースは2つ目の学校に当たるかどうかです。夜間の大学ならともかく英会話学校ではちょっと無理ではと思われるかも知れませんが、実は厚労省の行政解釈では、「職業能力の向上に資するもの」という前提があって、1年以上の課程を受けようとしている場合はこれは認めます、ということになっています。ですからぎりぎり通勤災害として認められるということになります。これは労働基準監督署の窓口にいる人でもときどき間違う、いわば瀬戸際の話です。


Q.週1回、登録ヘルパーとして在宅介護の仕事についているが、訪問する相手を指示され、報酬を受け取るのだから実質的な労働者で、災害にあったら労災保険の対象となる。

A.これは難しいところですが「×」です。「週1回」というのが、労働者性に当たるかどうか難しい。程度の問題ですが、実はかなり微妙で、週3回とか4回になってくると労働者性が出てくる場合があります。例え名前が「有償ボランティア」でも、指示されてそこへ行く、自分の都合で勝手には休めないというように拘束性が強いとなってくると労働者性は出てきます。しかし週1回程度なら、使用者の支配下にあるというよりは、対等の関係で仕事の委任を受けているとみられたりして、労働基準法上の労働者とは見なされない場合があるということです。

Q.デイホームの職員で、疥癬にかかり、原因は仕事以外に考えられないが、感染経路がはっきり特定できないので労災保険の給付は受けられない。

A.受けられるに決まているじゃないですかとお思いでしょうが、しかし実際認定されていないケースもあります。要するに労災保険の対象になるかならないかは、純粋医学的な因果関係の問題とか、通勤災害でしたら事実関係を明確にして判断するということです。医学的な因果関係の場合、原因がわからないから業務外というわけではなく、他に原因が考えられない、可能性が高いということでも業務起因性が認められますから、これは業務上災害になるわけです。

 先日こういう話がありました。保育園の保育士さんが風疹にかかった。風疹にかかっている子供を必要に迫られて預かり、うつってしまったということです。この件で所轄の労働基準監督署は不支給処分、労災保険でいう業務上ではないとしたのです。「看護婦さんとかお医者さんが病原菌を持った患者さんと接してその病気になったのでしたら認めるけれども、保育士さんはそういう状況にはない」と断定したのです。それで不支給処分になり相談に来られたのですが、新たに審査請求を行ったら、案の定、審査官は業務起因性ありと認定し、労基署の判断が取り消されました。

 それからどういう人に労災保険が適用されるのかということですが、要するに『職業の種類を問わず、事業又は事業所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。』これが労働基準法の第九条に書いてある労働者の定義がそのままあてはまります。これに適合すれば、一部の零細農林漁業従事者を除いて、全て労災保険の対象者になるということです。「使用される者」で「賃金を支払われる者」、これが労働者です。

 使用されるというのは、支配管理下にある。その人が命令をする、ここへ行きなさいとかこの仕事をしなさいと指示をする、その下で働いているということです。また賃金とは、労働の対象として支払われるもので、請負代金とか何かの報酬といっても、労働の対象として払われているのであれば名目の如何を問わず賃金ということになります。この2つがキーワードです。

 どんなとき問題になるかというと、トラックの持込運転手とか請負運転手、それから家政婦さんに生命保険の勧誘員とか有償ボランティアなど、労働者性の判断で分かれる場合があります。しかし、こんなものは労災保険の対象にならないと斬って捨てられない労働実態が実際にはあったりしますので、いろいろと相談されるのがよいでしょう。研修生とかお礼奉公なんていうことも問題になったりします。

 次に労災保険についてですが、法律的には『業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害又は死亡に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い』となっていて、これが労災保険の給付のことです。それから『労働者の社会復帰の促進』、長い間療養してなんとか良くなってきた、仕事に復帰したいという人について、労災保険法は社会復帰を応援しますといっています。さらに『遺族等の援護』についても定められています。

◆ 労災保険の認定、申請手続きに関して

 労災保険は強制保険、使用者の義務ですから必ず適用されます。労災保険料といったら、いわゆる保険料ではなく、実質的には税金です。「労働税」と言ってもいいくらいで、制度的にも労災保険の部分は雇用保険と切り離して税に入れてもいいのではと思うぐらいです。それで労災保険未加入の事業場で労災が発生したときどう扱われるかというと、これは被災者が請求すれば必ず支払われます。そして事業主には、これまで届出がされておらず、本来支払うべきものが支払われていないということで2年間溯って実態通り支払わせることになっています。2年間というのは、法律上の時効が2年ということです。ですからその事業を始めたのが3ヶ月前でしたら、3ヶ月前から保険料を徴収することになります。

 よくある話で、労災保険給付で休業補償をもらうのに会社を退職したらもらえなくなるのでは、と誤解されている人がいますが、そういうことはありません。『療養のために休業し、賃金を受けていない』という条件があれば、その会社を退職していても休業補償給付は受けられます。1年前に起きた労働災害とか職業病、そういう相談って意外にたくさんあります。その仕事を辞めてから1年になるのだけれども、あの時の怪我が原因で今こんなになった、今頃から労災といえるだろうかといった話です。こういう場合、原因がその時にあるということが医学的にはっきりしているのだったら、当然請求できます。ただし時効が療養補償と休業補償で2年、遺族補償と障害補償で5年となっています。

 たとえば災害原因が5年前に起こり、3年前から治療を開始し現在も続いているという場合で、労災保険の給付をいまになって請求したとしたら、時効は2年ですから、休業補償は請求した日から2年前まで請求できるということになります。原因になった災害が5年前でも、もらえるのは過去2年ということです。仮に5年前の事故が原因で3年前に死んだということであれば、その遺族は遺族補償の時効が5年ですからもらえるということになります。

 労災保険には事業主が証明する欄がありますが、事業主が証明しない、協力しない場合もあります。しかし事業主の証明は、不可欠ではありません。労災を認定しお金を払うのは国であり労働基準監督署なわけですから、事業主が拒否してもそのことをちゃんと労働基準監督署に報告すれば、請求書を受け付けてくれます。もちろん、労働基準監督署はその後事実を調べて、業務災害等であることが確かなら支給するということになります。

 どんな補償が受けられるかということですが、治療費は全部でます。健康保険でしたら三割負担ですけども、労災保険は全額補償です。休業補償給付は4日目からで、基準内賃金の六割+労働福祉事業の休業特別支給金で二割の合計八割もらえます。また障害補償・遺族補償とか、かなり手厚い保護になります。それから労災休業中とその後30日間は解雇できないことが労基法に規定されています。

 労災保険の給付請求手続きを説明しますと、被災者が労災を請求したい場合、まず休業補償について、事業主にその旨を伝えると、事業主が用紙に証明をする。それが駄目でしたら先ほどの話です。次に、病院でお医者さんの証明をもらう。そして事業所の管轄する労働基準監督署へ請求したら、監督署が必要な調査をした上で支給処分がなされます。

 それから療養補償の場合は、労災指定病院で治療を受けていたら、事業主が証明した請求書(様式第5号)を病院に提出するだけで、治療費の心配はいりません。指定病院が直接国に治療にかかった費用の支払を受けます。指定病院とは、国に代って治療するという、国(厚生労働省)との契約をしている病院ということですから、厚労省の労災療養についての窓口となります。どこが指定病院かというと、外科系統のある院や個人医院はたいてい労災指定病院と考えていただいて結構です。たとえば内科の開業医で労災指定を受けていない先生に診てもらったという場合は、いったん自分で治療費を支払い、その証明(様式第7号)を受けて、領収書をつけて労働基準監督署に請求するということになります。

 もう時間が来てしまいました。職場の安全衛生は、皆さんが快適で健康に働き続けるための基本となるものであり、働きやすさを想像するツールであるということを最後にもう一度申し上げ、私の話を終わります。ご静聴ありがとうございました。



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